カリフォルニアの庭と黒猫と里子

庭・猫・健康・里子のことなど

日本の夏の音

里子が我が家に来て6ヶ月。
なんちゅーしんどい長い6ヶ月だったのでしょう。

最近虐待の色々がポロポロと里子の口から出てくるようになり、正直言うとけっこう辛い日々を送っています。ブログを読む暇も、精神的に落ち着いて文章を考える余裕もありませんでした。


この子が体験してしまった数多くのトラウマ。この子を傷つけた人たちへの怒り、こうした子たちが世の中にはたっくさんいるということへのやるせなさ。自分の無力さ。この子を育てていくという自信のなさ。いろんな気持ちが混ざりまくって私の頭はいっぱいいっぱいです。



先日自分の誕生日を迎え、日本にいる幼なじみの友達が誕生日に連絡をくれました。私が今とても大変だということを伝えると、時間がある時に話さない?と言ってくれました。話聞くよ〜!と。


最後に会ったのは3年前。当時田舎暮らしを始めた彼女を日本に帰った際に訪ねたのが最後です。


日本の緑の山々が美しい田舎で環境にも体にも優しい生活を始めた彼女を誇りに思いました。
彼女のおうちに泊まらせてもらい、時差ボケで朝早く起きた私は清々しい空気に誘われて外に出ました。


深い緑の匂い。
日本の山の湿気の匂い。
早朝の青い空気と山々にかかる霧。
朝日が差し込んで明るくなっていく山。


自分の田舎でもないのに、田舎育ちでもないのに、なぜか帰ってきたわ!!と思い、山の美しさに涙しました。


その彼女と電話で話していたら、電話の奥からつくつくほーしつくつくほーし、という声と、カナカナカナカナというヒグラシの声が聞こえてきました。


この音、ほんとに日本の夏の独特な音だと思うのです。


彼女の住む家の前には山から流れてくる湧き水が流れています。

そのチョロチョロという音とともに、木の葉のザワザワした音、なんかわからんけど虫の音、そしてセミの音が全部一緒に聞こえてきたのです。ザ・日本の夏!!と日本で育った人なら誰もが思う音。


思わず、ごめん、ちょっと外出てみて音聞かせてくれないかなあ?と頼んでしまいました。


このザ・日本の夏の音を聞いていたら自然と涙がぶわーーーっと出てきてしまいました。

日本に帰りたい!


この半年頑張ってきて、第二言語で人種の違う子供を育てていて、日本食なんて食べれないからマックアンドチーズやらピーナッツバタージェリーサンドイッチやらばっかり作っていた私。

すっかりホームシックだったのねーーと気づきました。



自分でもびっくりしました。音の力。
匂いも記憶と強くリンクしてる、とよく聞きますが、音もそうなのでしょうね。日本の独特なあの夏の音は、私の脳内にしっかりとインプットされています。
子供の頃九州のじいちゃんとばあちゃんの家を訪ねた、幸せな夏休みの気分にさせてくれるのです。
彼女の住む美しい山や棚田、緑の匂い、肌にじっとりくる湿気。そんな感覚も一気に脳裏に蘇ります。ああ、縁側でスイカ食べながらお茶飲んで、畳でねっころがりたい。



翌日この優しい優しい友達は近所の田んぼで音をわざわざ録音して送ってくれました。
疲れていた私はこの音と蘇る記憶に助けられました。
友達にとっても感謝しています。




さて、私はこの素敵な音や楽しい夏休みの記憶に助けられたわけですが

うちの里子は虐待をした人に似ている人を見たり
手を引っ張られたり、
ドアを閉められたり、
大きな音がする度に彼の脳裏には嫌な記憶が蘇ります。

置いていかれた。食べ物がなかった。高速道路の下で寝た。 逆さ吊りにされてベルトで鞭打たれた。

そういう記憶は体に反応として残っていて

五感と強くリンクしているわけです。

これをトリガーとトラウマの世界では呼んでいるようです。


記憶って素晴らしくもあり、やっかいでもありますね。そして私たちは五感すべてを使って脳裏に足跡を残していきます。残したくても残したくなくても。


いい思い出だけ残して嫌な記憶は捨て去ることが出来たらいいのになあなんて。


私に出来ることはこの子に楽しい幸せな記憶を残してあげることなんですよね。五感が脳に嫌な記憶を思い出させても、それを塗り替えていく。一つずつ。ゆっくりゆっくり。



私は友達の送ってくれた日本の夏の音を聞きながら心を落ち着け、
頭の中で縁側でお茶を飲みつつ、ゆっくりゆっくり続けていくしかない。

と思うある夏の終わりの夜でした。